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Miyazawa Kenji (宮沢 賢治) lived from 1896-1933. He was a Japanese poet and novelist. He is famous for Night on the Galactic Railroad (銀河鉄道の夜) a fantasy novel and the poem, 雨ニモマケズ (see here for the TJP lesson page).
About The Restaurant with Many Orders
Today's short story, 注文の多い料理店 (The Restaurant with Many Orders) is a fun fantasy/horror/comedy. It's about two gentlemen in Western-style clothing who go hunting in the woods. They discover a Western-style restaurant in the middle of the woods. Hungry, the two decide to go in.
The Title
Let's examine the Japanese title: 注文の多い料理店. The order is the opposite of English:
In English we would add the modifiers after the noun (usually): The restaurant with many orders.
But in Japanese, the modifiers comes before the noun (usually). One trick for translating many Japanese sentences is to grab the topic (the noun before the は) and then jump to the end and work back. So, "Restaurant 料理店 with many 多い orders 注文."
The title is a wordplay.
注文の多い can mean “many orders” or “demanding; strict; difficult”. In English “order” can mean “order at a restaurant” or “a command.” The Japanese 注文 can also imply these meanings.
How to Use this Page
Japanese and English
Read the Japanese while listening to the story. Toggle the English to check your understanding. We are using the English translation found at Wikisource. The name of the translator isn't listed, but it is released under the Creative Commons Attribution-ShareAlike license.
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Let's Read The Story
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宮沢 賢治
注文の多い料理店
二人の若い紳士が、すっかりイギリスの兵隊のかたちをして、ぴかぴかする鉄砲をかついで、白熊のような犬を二疋つれて、だいぶ山奥の、木の葉のかさかさしたとこを、こんなことを云いながら、あるいておりました。
English
「ぜんたい、ここらの山は怪しからんね。鳥も獣も一疋も居やがらん。なんでも構わないから、早くタンタアーンと、やって見たいもんだなあ。」
English
「鹿の黄いろな横っ腹なんぞに、お見舞もうしたら、ずいぶん痛快だろうねえ。くるくるまわって、それからどたっと倒れるだろうねえ。」
English
それはだいぶの山奥でした。案内してきた専門の鉄砲打ちも、ちょっとまごついて、どこかへ行ってしまったくらいの山奥でした。
English
それに、あんまり山が物凄いので、その白熊のような犬が、二疋いっしょにめまいを起こして、しばらく吠って、それから泡を吐いて死んでしまいました。
English
「じつにぼくは、二千四百円の損害だ」と一人の紳士が、その犬の眼ぶたを、ちょっとかえしてみて言いました。
English
「ぼくは二千八百円の損害だ。」と、もひとりが、くやしそうに、あたまをまげて言いました。
English
はじめの紳士は、すこし顔いろを悪くして、じっと、もひとりの紳士の、顔つきを見ながら云いました。
English
「ぼくはもう戻ろうとおもう。」
English
「さあ、ぼくもちょうど寒くはなったし腹は空いてきたし戻ろうとおもう。」
English
「そいじゃ、これで切りあげよう。なあに戻りに、昨日の宿屋で、山鳥を拾円も買って帰ればいい。」
English
「兎もでていたねえ。そうすれば結局おんなじこった。では帰ろうじゃないか」
English
ところがどうも困ったことは、どっちへ行けば戻れるのか、いっこうに見当がつかなくなっていました。
English
風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。
English
「どうも腹が空いた。さっきから横っ腹が痛くてたまらないんだ。」
English
「ぼくもそうだ。もうあんまりあるきたくないな。」
English
「あるきたくないよ。ああ困ったなあ、何かたべたいなあ。」
English
「たべたいもんだなあ」
English
二人の紳士は、ざわざわ鳴るすすきの中で、こんなことを云いました。
English
その時ふとうしろを見ますと、立派な一軒の西洋造りの家がありました。
English
そして玄関には
English
RESTAURANT
西洋料理店
WILDCAT HOUSE
山猫軒
という札がでていました。
English
「君、ちょうどいい。ここはこれでなかなか開けてるんだ。入ろうじゃないか」
English
「おや、こんなとこにおかしいね。しかしとにかく何か食事ができるんだろう」
English
「もちろんできるさ。看板にそう書いてあるじゃないか」
English
「はいろうじゃないか。ぼくはもう何かたべたくて倒れそうなんだ。」
English
二人は玄関に立ちました。玄関は白い瀬戸の煉瓦で組んで、実に立派なもんです。
English
そして硝子の開き戸がたって、そこに金文字でこう書いてありました。
English
「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません」
English
二人はそこで、ひどくよろこんで言いました。
English
「こいつはどうだ、やっぱり世の中はうまくできてるねえ、きょう一日なんぎしたけれど、こんどはこんないいこともある。このうちは料理店だけれどもただでご馳走するんだぜ。」
English
「どうもそうらしい。決してご遠慮はありませんというのはその意味だ。」
English
二人は戸を押して、なかへ入りました。そこはすぐ廊下になっていました。その硝子戸の裏側には、金文字でこうなっていました。
English
「ことに肥ったお方や若いお方は、大歓迎いたします」
English
二人は大歓迎というので、もう大よろこびです。
English
「君、ぼくらは大歓迎にあたっているのだ。」
English
「ぼくらは両方兼ねてるから」
English
ずんずん廊下を進んで行きますと、こんどは水いろのペンキ塗りの扉がありました。
English
「どうも変な家だ。どうしてこんなにたくさん戸があるのだろう。」
English
「これはロシア式だ。寒いとこや山の中はみんなこうさ。」
English
そして二人はその扉をあけようとしますと、上に黄いろな字でこう書いてありました。
English
「当軒は注文の多い料理店ですからどうかそこはご承知ください」
English
「なかなかはやってるんだ。こんな山の中で。」
English
「それあそうだ。見たまえ、東京の大きな料理屋だって大通りにはすくないだろう」
English
二人は云いながら、その扉をあけました。するとその裏側に、
English
「注文はずいぶん多いでしょうがどうか一々こらえて下さい。」
English
「これはぜんたいどういうんだ。」
English
ひとりの紳士は顔をしかめました。
English
「うん、これはきっと注文があまり多くて支度が手間取るけれどもごめん下さいと斯ういうことだ。」
English
「そうだろう。早くどこか室の中にはいりたいもんだな。」
English
「そしてテーブルに座りたいもんだな。」
English
ところがどうもうるさいことは、また扉が一つありました。そしてそのわきに鏡がかかって、その下には長い柄のついたブラシが置いてあったのです。
English
扉には赤い字で、
English
「お客さまがた、ここで髪をきちんとして、それからはきものの泥を落してください。」
English
と書いてありました。
English
「これはどうも尤もだ。僕もさっき玄関で、山のなかだとおもって見くびったんだよ」
English
「作法の厳しい家だ。きっとよほど偉い人たちが、たびたび来るんだ。」
English
そこで二人は、きれいに髪をけずって、靴の泥を落しました。
English
そしたら、どうです。ブラシを板の上に置くや否や、そいつがぼうっとかすんで無くなって、風がどうっと室の中に入ってきました。
English
二人はびっくりして、互によりそって、扉をがたんと開けて、次の室へ入って行きました。早く何か暖いものでもたべて、元気をつけて置かないと、もう途方もないことになってしまうと、二人とも思ったのでした。
English
扉の内側に、また変なことが書いてありました。
English
「鉄砲と弾丸をここへ置いてください。」
English
見るとすぐ横に黒い台がありました。
English
「なるほど、鉄砲を持ってものを食うという法はない。」
English
「いや、よほど偉いひとが始終来ているんだ。」
English
二人は鉄砲をはずし、帯皮を解いて、それを台の上に置きました。 また黒い扉がありました。
English
「どうか帽子と外套と靴をおとり下さい。」
English
「どうだ、とるか。」
English
「仕方ない、とろう。たしかによっぽどえらいひとなんだ。奥に来ているのは」
English
二人は帽子とオーバーコートを釘にかけ、靴をぬいでぺたぺたあるいて扉の中にはいりました。
English
扉の裏側には、
English
「ネクタイピン、カフスボタン、眼鏡、財布、その他金物類、ことに尖ったものは、みんなここに置いてください」
English
と書いてありました。扉のすぐ横には黒塗りの立派な金庫も、ちゃんと口を開けて置いてありました。鍵まで添えてあったのです。
English
「ははあ、何かの料理に電気をつかうと見えるね。金気のものはあぶない。ことに尖ったものはあぶないと斯う云うんだろう。」
English
「そうだろう。して見ると勘定は帰りにここで払うのだろうか。」
English
「どうもそうらしい。」
English
「そうだ。きっと。」
English
二人はめがねをはずしたり、カフスボタンをとったり、みんな金庫のなかに入れて、ぱちんと錠をかけました。
English
すこし行きますとまた扉があって、その前に硝子の壺が一つありました。扉には斯う書いてありました。
English
「壺のなかのクリームを顔や手足にすっかり塗ってください。」
English
みるとたしかに壺のなかのものは牛乳のクリームでした。
English
「クリームをぬれというのはどういうんだ。」
English
「これはね、外がひじょうに寒いだろう。室のなかがあんまり暖いとひびがきれるから、その予防なんだ。どうも奥には、よほどえらいひとがきている。こんなとこで、案外ぼくらは、貴族とちかづきになるかも知れないよ。」
English
二人は壺のクリームを、顔に塗って手に塗ってそれから靴下をぬいで足に塗りました。それでもまだ残っていましたから、それは二人ともめいめいこっそり顔へ塗るふりをしながらたべました。
English
それから大急ぎで扉をあけますと、その裏側には、
English
「クリームをよく塗りましたか、耳にもよく塗りましたか、」
English
と書いてあって、ちいさなクリームの壺がここにも置いてありました。
English
「そうそう、ぼくは耳には塗らなかった。あぶなく耳にひびを切らすとこだった。ここの主人はじつに用意周到だね。」
English
「ああ、細かいとこまでよく気がつくよ。ところでぼくは早く何かたべたいんだが、どうも斯うどこまでも廊下じゃ仕方ないね。」
English
するとすぐその前に次の戸がありました。
English
「料理はもうすぐできます。十五分とお待たせはいたしません。すぐたべられます。早くあなたの頭に瓶の中の香水をよく振りかけてください。」
English
そして戸の前には金ピカの香水の瓶が置いてありました。
English
二人はその香水を、頭へぱちゃぱちゃ振りかけました。
English
ところがその香水は、どうも酢のような匂がするのでした。
English
「この香水はへんに酢くさい。どうしたんだろう。」
English
「まちがえたんだ。下女が風邪でも引いてまちがえて入れたんだ。」
English
二人は扉をあけて中にはいりました。
English
扉の裏側には、大きな字で斯う書いてありました。
English
「いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でした。
English
もうこれだけです。どうかからだ中に、壺の中の塩をたくさんよくもみ込んでください。」
English
なるほど立派な青い瀬戸の塩壺は置いてありましたが、こんどというこんどは二人ともぎょっとしてお互にクリームをたくさん塗った顔を見合せました。
English
「どうもおかしいぜ。」
English
「ぼくもおかしいとおもう。」
English
「沢山の注文というのは、向うがこっちへ注文してるんだよ。」
English
「だからさ、西洋料理店というのは、ぼくの考えるところでは、西洋料理を、来た人にたべさせるのではなくて、来た人を西洋料理にして、食べてやる家とこういうことなんだ。これは、その、つ、つ、つ、つまり、ぼ、ぼ、ぼくらが……。」がたがたがたがた、ふるえだしてもうものが言えませんでした。
English
「その、ぼ、ぼくらが、……うわあ。」がたがたがたがたふるえだして、もうものが言えませんでした。
English
「遁げ……。」がたがたしながら一人の紳士はうしろの戸を押そうとしましたが、どうです、戸はもう一分も動きませんでした。
English
奥の方にはまだ一枚扉があって、大きなかぎ穴が二つつき、銀いろのホークとナイフの形が切りだしてあって、
English
「いや、わざわざご苦労です。大へん結構にできました。さあさあおなかにおはいりください。」
English
と書いてありました。おまけにかぎ穴からはきょろきょろ二つの青い眼玉がこっちをのぞいています。
English
「うわあ。」がたがたがたがた。
English
「うわあ。」がたがたがたがた。
English
ふたりは泣き出しました。
English
すると戸の中では、こそこそこんなことを云っています。
English
「だめだよ。もう気がついたよ。塩をもみこまないようだよ。」
English
「あたりまえさ。親分の書きようがまずいんだ。あすこへ、いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう、お気の毒でしたなんて、間抜けたことを書いたもんだ。」
English
「どっちでもいいよ。どうせぼくらには、骨も分けて呉れやしないんだ。」
English
「それはそうだ。けれどももしここへあいつらがはいって来なかったら、それはぼくらの責任だぜ。」
English
「呼ぼうか、呼ぼう。おい、お客さん方、早くいらっしゃい。いらっしゃい。いらっしゃい。お皿も洗ってありますし、菜っ葉ももうよく塩でもんで置きました。あとはあなたがたと、菜っ葉をうまくとりあわせて、まっ白なお皿にのせるだけです。はやくいらっしゃい。」
English
「へい、いらっしゃい、いらっしゃい。それともサラドはお嫌いですか。そんならこれから火を起してフライにしてあげましょうか。とにかくはやくいらっしゃい。」
English
二人はあんまり心を痛めたために、顔がまるでくしゃくしゃの紙屑のようになり、お互にその顔を見合せ、ぶるぶるふるえ、声もなく泣きました。
English
中ではふっふっとわらってまた叫んでいます。
English
「いらっしゃい、いらっしゃい。そんなに泣いては折角のクリームが流れるじゃありませんか。へい、ただいま。じきもってまいります。さあ、早くいらっしゃい。」
English
「早くいらっしゃい。親方がもうナフキンをかけて、ナイフをもって、舌なめずりして、お客さま方を待っていられます。」
English
二人は泣いて泣いて泣いて泣いて泣きました。
English
そのときうしろからいきなり、「わん、わん、ぐゎあ。」という声がして、あの白熊のような犬が二疋、扉をつきやぶって室の中に飛び込んできました。鍵穴の眼玉はたちまちなくなり、犬どもはううとうなってしばらく室の中をくるくる廻っていましたが、また一声「わん。」と高く吠えて、いきなり次の扉に飛びつきました。戸はがたりとひらき、犬どもは吸い込まれるように飛んで行きました。
English
その扉の向うのまっくらやみのなかで、「にゃあお、くゎあ、ごろごろ。」という声がして、それからがさがさ鳴りました。
English
室はけむりのように消え、二人は寒さにぶるぶるふるえて、草の中に立っていました。
English
見ると、上着や靴や財布やネクタイピンは、あっちの枝にぶらさがったり、こっちの根もとにちらばったりしています。風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。
English
犬がふうとうなって戻ってきました。
English
そしてうしろからは、「旦那あ、旦那あ、」と叫ぶものがあります。
English
二人は俄かに元気がついて「おおい、おおい、ここだぞ、早く来い。」と叫びました。
English
簔帽子をかぶった専門の猟師が、草をざわざわ分けてやってきました。
English
そこで二人はやっと安心しました。
English
そして猟師のもってきた団子をたべ、途中で十円だけ山鳥を買って東京に帰りました。
English
しかし、さっき一ぺん紙くずのようになった二人の顔だけは、東京に帰っても、お湯にはいっても、もうもとのとおりになおりませんでした。
English
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